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第四章「消えゆく楽園」

Auteur: 佐薙真琴
last update Dernière mise à jour: 2025-12-17 10:17:53

 七月に入り、薔薇の最盛期が過ぎると、庭は少し静かになった。

 花の数は減り、葉が濃い緑色に変わっていく。でも、その静けさにも独特の美しさがあった。

 胡蝶は、薔薇園の四季を全て記録しようと決めた。春の華やかさだけでなく、夏の深い緑、秋の実り、そして冬の眠りまで。

「季節によって、庭の表情が全く違うの」

 胡蝶はカメラのファインダーを覗きながら言った。

「この変化も、記憶の一部として残したい」

 紬の刺繍も、順調に進んでいた。

 すでに十五種類の薔薇が完成し、それぞれが驚くほどの完成度だった。でも、紬は満足していなかった。

「まだ足りないの」

 ある日、紬は悩ましげに言った。

「個々の薔薇は刺繍できた。でも、庭全体の雰囲気を表現する大作も作りたい」

「大作?」

「うん。すべての薔薇が一つの布に咲いている、庭園の風景を刺繍したいの」

 それは途方もない計画だった。

 一つの薔薇を刺繍するのに一週間かかる。庭全体を表現するとなれば、数ヶ月では足りないだろう。

「時間が足りないわ」

 マリアンヌが心配そうに言った。

「十二月までに完成させるのは、無理があるんじゃない?」

「でも、やりたいんです」

 紬の目には、強い決意の光があった。

「この庭の本当の美しさは、個々の薔薇だけじゃない。全体の調和、光と影のバランス、空気の流れ……そういう全てを含めて、薔薇園なんです」

 マリアンヌは深く頷いた。

「分かったわ。じゃあ、一緒に頑張りましょう」

 それから、紬の生活は刺繍一色になった。

 朝は早く起きて、登校前に一時間刺繍する。昼休みも、放課後も、全ての時間を刺繍に費やした。

「紬さん、大丈夫?」

 ひかりが心配そうに声をかけてきた。

「最近、ずっと疲れてるみたいだけど」

「大丈夫」

 紬は笑顔を作った。

「やらなきゃいけないことがあ

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